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NANJO SELLECTION Vol.8 開催のお知らせ

「NANJO SELECTION」の第8弾として、N&A Art SITEにてフカミエリ『夢は魚のようにはねている』を2026年2月13日(金)から3月7日(土)まで開催いたします。

開催概要

展覧会名: NANJO SELECTION vol. 8 フカミエリ『夢は魚のようにはねている』
会期:2026年2月13日(金)− 3月7日(土)12:00-17:00 (日)(月)休 
会場:N&A Art SITE(東京都目黒区上目黒1-11-6 / 東急東横線中目黒駅より徒歩5分)
主催:エヌ・アンド・エー株式会社、アートジーン合同会社

2月13日(金)17:00-19:00内覧会開催(作家在廊予定) ※12:00より開廊

作家ステートメント

小さいころ、山の近くで育った。
坂道が多くて、どこへ行くにも車がないと不便な町だった。
夏になると、近くのジャスコで毎週日曜日、
カブトムシの幼虫が水あめの容器に入れられて配られた。
私はそれを宝物をもつように抱えて帰った。

ベランダに出ると午後の光がまぶしくて、ブラスチックの蓋が白く光っていた。
その大きなプラケースに飼育用の土を入れ、幼虫をそっと埋めた。
次の日も、つぎのひも、幼虫はいつも土の中に潜っていてとてもつまらなかった。
カブトムシ見たいなあっと土を掘ったり、いじくったりしていたら
「蛹になってるかもしれないから、やめようね」と母にちくりと言われた。

朝よりも昼、昼よりも夜、寝る前にずっと気持ち悪いけどかわいいあいつが気になって、
とうとう我慢できなくなって次の日曜日車を出してもらいジャスコに向かった。

朝の子供たちが並ぶ列で、大人のおじさんが容器を1つ1つ手渡ししている。
番が待ち切れなくて、列の紐を触ったり、ポールを蹴ったりしながら遊んだ。
私の番になって、壊れないようにそっと受け取り、手にぬくもりを感じながらその場を離れた。
小さな動きまで見える様に目を凝らすと、ところどころ小さなシワが寄っていてその肌にびっしり並ぶ
黒い点々が不思議に思えた。図書館で調べてみると、その黒い点々は「気門」と呼ばれる呼吸のための器官だった。こんな小さな身体の中にも、ちゃんと息づく世界があるんだと思った記憶がある。

気づけば、幼虫は12匹になっていて、ブラスチックの容器も2個に増えていた。
西陽が差し込むべランダで透明な蓋が金色に光っていた。
小さな世界が、そこに静かに呼吸していた。

あの頃見ていた山はとても大きかった。
登ってみると、山は土でできていて土は砂で出来ていた。
大きなものも結局は小さなものの集まりなんだ。そう気づいた時、
世界の見え方が少し変わったような気がした。

テレピンを出して絵の具を混ぜているとき、世界の始まりを少しだけ思い出すような気がする。
粘土をこねるように、ナイフで他を作って、それを大きい刷毛で馴染ませる。
真っ白いキャンバスに薄めた絵の具をザパッとかけると、地の色と重なった膜が生き物みたいな形に見える。
淡く溶けたところ、くっきりと残った境目、その間にできる呼吸のような揺らぎ。
そこにまた別の色を重ねてみる。
色が重なって、透明な場所、濃い場所、ぼやけた場所、
その全部の奥行きを見ながらどこが手前でどこが遠くなのかじっと見つめる。
曖味な世界の中に、人や生き物や自然を線で描いていく。
気づけば、あの子供のころに見ていた山が近づいたり遠ざかったりしていている。
その揺らぎを、記憶の奥から筆の先へと手渡すように線を引く。
描いていると、絵の中の誰かがふとこちらを見て「もうここまででいいよ」と囁くように感じる。
この声を受け取って、筆を止める。
少し離れて絵を眺めると、絵はもう自分よりもずっと強い光を持って立っていた。

「この世界はどんな世界なんだろう」
土が姿形を変えても、元は別の何かだったように、
私も人の姿形をしているけれど、色んな存在の続きを生きている。

見えないけれど、この世界にあるかもしれない。
大きいかもしれないし小さいかもしれない世界をキャンバスの中で探している。

フカミエリ

フカミエリについて

いつからか、普遍的な物語の時代は終わり、個人的で個別的でヴァナキュラーな物語の時代になった。物語は、作者の内的で揺れ動く夢想と、未来に対する不安と期待がないまぜになった世界である。登場する人物は神話的であると同時に作者自身でもあるだろう。抽象化された人物の輪郭は、不思議な存在感を示し、見つめる眼差しは見る人に強い問いを投げ返している。この微妙で堅固な身体と、朦朧とした夢の世界がフカミの魅力である。フカミはパーソナルな物語の語り部である。世界は、無数の現実と無数の物語で満ちているのだ。

南條史生

アーティストプロフィール

大阪生まれ、東京藝術大学 大学院 修士油画第6研究室在籍。

自分と世界における「こころの在りか」をテーマに制作している。 『人間の意識を作っているのはなんだろうか。とある瞬間に、デジャヴを感じたり。夢の中で何度も繰り返される光景を見たり。「なにか」に出会って感動したり。私達が、意識せずとも。こころが、感情が、記憶が、私よりも正確に「世界の在りか」を教えてくれる。』